内容
● 「エンレスト」について
日時
2020年9月11日
ノバルティスファーマ株式会社
エンレストについて
エンレストは既に海外では5年前に承認・販売されている。
心不全の病態を悪化させる神経体液性因子の一つであるレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)の過剰な活性化を抑制するとともに、RAAS と代償的に作用する内因性のナトリウム利尿ペプチド系を増強し、神経体液性因子のバランス破綻を是正することを一剤で可能にした、新しいアプローチの薬剤である。
●病態
心不全は、心臓のポンプの働きが低下したために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪化し、生命を縮める病気。多くの場合、慢性・進行性に経過し、急性増悪を反復することにより徐々に重症化していく。
分類 | LVEF |
LVEFの低下した心不全(HFrEF:ヘフレフ) | 40%未満 |
LVEFの保たれた心不全(HFpEF:ヘフペフ) | 50%以上 |
LVEFが軽度低下した心不全(HFmrEF:へフエムレフ) |
40%以上 50%未満 |
LVEFが改善した心不全(HFpEF improved) | 40%以上 |
- 左室駆出率(LVEF:left ventricular ejection fraction)
⇒左心室の機能に関する指標。「(左室拡張末期容積-左室収縮末期容積)÷左室拡張末期容積」で計算する。
●作用機序
- ネプリライシン阻害薬のサクビトリル
- ARBのバルサルタンがモル比1:1で含まれる単結晶構造を有していて、ARNI:アーニィと呼ばれる新しいタイプの治療薬
生体内には利尿作用や血管拡張作用を有するホルモンとして「内因性ナトリウム利尿ペプチド(ANP、BNP、CNP)」が存在してがいるが、これはネプリライシンと呼ばれる酵素によって分解されてしまう。
サクビトリルは体内で活性体(LBQ657)に変換され、ネプリライシンを阻害する。その結果、内因性ナトリウム利尿ペプチドの量が増加し、利尿作用や血管拡張作用によって体液量が減少して心負荷が軽減されると考えられる。
アンジオテンシノーゲンからアンジオテンシノーゲンからアンジオテンシンⅠ⇒アンジオテンシンⅡが合成されるが、これが血管のAT1受容体に作用することで血圧が上昇する。
ARB(バルサルタン)はアンジオテンシンⅡが作用するAT1受容体を遮断することで血管拡張作用・血圧低下作用を示す。
サクビトリルによるネプリライシン阻害作用と、バルサルタンによるAT1受容体遮断作用によって、体液量と血圧が低下することで心負荷を軽減し、心不全による症状・進行を抑制できると考えられる。
●PARADIGM-HF試験について
PARADIGM-HF試験は、HFrEF(LVEFの低下した心不全)の患者さんを対象に、推奨される治療に加えて、エンレスト(1日2回投与)群と、ACE阻害薬のエナラプリル(1日2回投与)群を直接比較する第Ⅲ相臨床試験
対象患者さんは試験治療開始前にエナラプリルの2週間投与、次いでエンレストの4~6週投与による慣らし期間を設け、副作用等がないことを確認。
HFrEFにおいては、ACE阻害薬のエナラプリル(製品名:レニベース)と比較してエンレストで有意に死亡率や入院割合の低下が認められた。
●用法用量について
通常、成人にはサクビトリルバルサルタンナトリウムとして1回50mgを開始用量として1日2回経口投与
忍容性が認められる場合は、2~4週間の間隔で段階的に1回200mgまで増量
1回投与量は50mg、100mg又は200mgとし、いずれの投与量においても1日2回経口投与
忍容性に応じて適宜減量
●効能又は効果に関連する注意
- 本剤は、アンジオテンシン変換酵素阻害薬又はアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬から切り替えて投与すること。
- 「臨床成績」の項の内容を熟知し、臨床試験に組み入れられた患者の背景(前治療、左室駆出率、収縮期血圧等)を十分に理解した上で、適応患者を選択すること。
重要な基本的注意
血管浮腫があらわれるおそれがあるため、本剤投与前にアンジオテンシン変換酵素阻害薬が投与さ れている場合は、少なくとも本剤投与開始36時間前に中止すること。また、本剤投与終了後にアン ジオテンシン変換酵素阻害薬を投与する場合は、本剤の最終投与から36時間後までは投与しない こと。
*36時間の設定理由→安全性の担保。効果が切れても問題なかった。
Q.服用後どのくらいで効果認められるか?
A.BNP-1ヶ月で大きく心負荷が軽減
ネプリライシン阻害薬のサクビトリルと、ARBのバルサルタンを組み合わせることにより、両方の作用で心不全の進行をを抑制・治療効果が期待される薬剤であることが分かった。